大判例

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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)5042号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで次に本件訴状(昭和三九年二月八日被告送達)による本件賃貸借の解約の申入れに正当の事由が存するか否かについて考える。<証拠>を総合すると、原告は復員以来本件家屋の階下部分を被告に賃貸し、自らは階上部分の六畳及び三畳の二部屋で妻及び子の三人で生活してきたところ、昭和三八年九月脳溢血で倒れ半身不随のまま床につくことになつた。ところで便所は階下にあるため病後はその利用に著しい困難を伴うとともに病気の安静加療にも支障を来たすので、原告は同年一〇月頃人を介して被告に対し階下の明渡を求めた。ところが被告よりすげなくこれを拒否されたので、原告はやむなく不便と健康上の危険を犠牲にして本件家屋の二階で養生を続けていたところ、昭和三九年一月頃には病気も次第に快方に向かい起床して一人で歩行することも可能となつたので、本訴提起後の同年三月下旬頃からもとの勤務先の関西刷子工業株式会社に復職し、爾来本人の健康状態を考慮しつつ出勤及び退社時間は随時ということで右会社に勤務して一カ月三万円足らずの収入を得ており、当初使用していた杖も不要となり現在は一見したところ常人と変らないまでに回復した。然しながら血圧は未だに普通よりは高く言語にも多少の障害は残つており、出来るだけ安静にし健康に留意しなければ再発の可能性もあり、階段の昇り降りなどは好ましくないので本件階下の明渡を切望している。一方被告は現在階下(六畳、三畳、二畳各一と間及び台所)に夫婦と次男、三男、四男の四人家族で居住し、被告自身は脊椎カリエスや糖尿病の持病があり健康にすぐれないがボタンの染色加工の職人として日給千円余りを得ているほか次男及び三男はいずれも働きに出ているため、生活は楽とはいえないが日常生活にも事欠くような状態ではないこと、被告の資産としては大阪市住吉区に弟等と共有の建坪十坪(三三・〇五平方米)余の木造瓦葺二階建の居宅があるが、右建物には弟の家族が居住していて被告が右家屋に移ることは困難であること、以上の事実を認ることができ<証拠略>る。

ところで本件賃貸借は日本式家屋の一部の賃貸借であつて原被告が便所及び炊事洗濯場を共同で使用していることはさきに述べた通りであり、ことに<証拠>を総合すると原告の家族が便所に行くためには階下の二畳の間及び被告が寝室に使用している六畳の間を通らなければならなので夜間は部屋の一部をカーテンで仕切り便所への通路としている状態であることが認められるから、本件賃貸借の維持存続のためには双方の間に親愛感と理解協力関係の存続が必要とされることが明らかである。したがつて、本件解約申入れに正当の事由が存するか否かを判断するについてもさきに認定した本件階下部分を必要とする双方の事情の外に双方の対人関係が特に留意されなければならない。ところが<証拠>に弁論の全趣旨を総合すると、被告夫婦は原告が脳溢血で倒れた際も原告に対する理解同情に欠けるところがあつたばかりか原告より階下の明渡を求められるや原告一家を仇敵視して原告の行動を監視してこれを逐一記録し、原告の家族に対し嫌がらせを行ない、今や原被告間には日常生活上も親愛協力の関係は全く失われ互に反目し合つている事実が認められる。終戦直後の住宅が極度に不足していて他にこれを入手する方法がなかつた時代ならともかく現在においては親族でもない他人同志にかかる状態で同一家屋で同居を続けることを強いるのは酷という外はなく、以上諸般の事情を併せ考えると本件解約の申入れは正当の事由の存在を肯認するのが相当である。(谷野英俊)

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